ヴァイオリン覚書♪アリーナ・イブラギモヴァ「ベートーベン Vnソナタ集3」2011年06月16日

日本のamazon、4月下旬発売が延びに延びて、6月中旬発売となったこのCD。
病み上がりの私を労わるかのように、先日ようやく!ひっそりと玄関先の飛脚メール便でぶらさがっておりました(笑)
もちろんその日のうちに開封して聴きましたが…レッスンから帰って色々済ませた後の深夜だったので、興奮しすぎて冷静に聴けず(爆)、iPodに入れて後日じっくりとヘッドフォンで聴きました♪

ヴァイオリン覚書♪アリーナ・イブラギモヴァ「ベートーベン Vnソナタ集3」

・ヴァイオリン・ソナタ 第6番イ長調 op.30-1
 専門的な事は語れないので、感覚的な感想で申し訳ないのですが…
 朝露をたっぷり含んだ山の夜明けに、小鳥が囀っていたり、
 ちょんちょん地面を跳ねていたりする雰囲気をそのまま音にしたような
 潤いを含みつつも軽やかに、転がったり駆け上がったり散ったりする音が
 本当に心地よくて…ただ、ただ、聴いていたい。もう言葉は要らない感じ。
 ソナタ集1、2では、アリーナの情熱を初めて音で強く感じたのですが
 3ではそこをフッと突き抜けたような別の躍動感、開放感がありました。
 ティベルギアンさんのピアノがまた一段と素敵vvv
 1,2の時より抑え気味に感じたのは録音のせいかもしれませんけれど
 ピアノの軽いタッチひとつがこんなにも色彩感を描き出せるのか!というくらい
 各楽章通して比較的狭い起伏幅の中に込められた音の一粒一粒に
 色んな表情や趣があります。
 以前の感想と同様、つまり一見単調な分散和音素晴らしいんですよね。
 あと、このソナタを聴いて、二人って多分、一流の打楽器奏者並みに
 テンポ感、リズム感がいいのでは?
と思いました。
 一流のオケ、一流のソリストが奏でる協奏曲、ソナタでも多少はテンポがブレたり
 温度差を感じたりするものですけど、ピアノとヴァイオリンのアルペジオなんか、
 質感、温度感、強弱、起伏、全部神業的にぴったりで…
 だから何も言わず黙って聴いていたくなるのかも。

・ヴァイオリン・ソナタ 第3番変ホ長調 op.12-3
 旋律だけならものすごくピアノが難しそうなのですけど…
 ティベルギアンさんはCDを聴く限り、軽々と、しかもたっぷりと謳いあげてる…。
 そこにアリーナの、彼女らしい、しっとりとした高音(ここ重要)
 吐息のような弱音が話しかけたり、応えたりしていて…
 ホールでの二人の演奏対話が目に浮かんでくるようです…うっとり。
 演奏している空気感が音だけで伝わってくるというのは
 あるようでなかなかないものですよ。CDは所詮CD。
 ですけれど、聴いてる途中でプレイヤーの表情がふわ~っと見えてくる時、
 それは曲の中にちゃんとプレイヤーの個性が光っているからなのかな?
 なんて思いました。
 
・ヴァイオリン・ソナタ 第9番イ長調 「クロイツェル」op.47
 さぁ!待ちに待った憧れ曲「クロイツェル」!
 色んなところで聴く機会の多い、耳馴染みのある超有名曲ですが、
 今年に入ってからはアリーナの演奏を聴く前に他の人と比較してみようと思って
 NHKで放送された庄司紗矢香さんの演奏を聴きました。
 実はオケとの共演などではそれほど好みでなかった庄司さんのクロイツェルが
 意外にも良くて、アリーナだったらどう応えてくれるのか…
 ホールで聴かれたつるびねったさんいわく「はっちゃけた」演奏って…!?
 とそれはもうドキドキ、ワクワクしていたのです。
 ※でもフライングせず、最初はちゃんとCD収録順に聴きましたヨ(笑)
 
 そしたらまたびっくりさせられてしまいました!
 つい前収録曲までは語らうような音を奏でていた二人が…
 斬った張ったの(違)、音と旋律の大応酬!
 確かにクロイツェルは冒頭からして、その予兆アリアリの旋律だし、
 これまで私が聴いてきた他プレイヤーの共演でも
 激しい掛け合いが当たり前でしたけれども
 前回『春』であんなに柔らかなスフォルツァンドを聴かせてくれたアリーナが
 心臓にズキッ、耳にシュッと刺さるような、鋭角のスフォルツァンドを切り込んで
 こんなに激しくかき鳴らすなんて…思いもよらなかったのです。
 しかもちょっとヴィブラート抑え気味だから余計、奥まで突き刺さってきます。
 聴いてると、じわじわじわ~っとアドレナリンが分泌されてくる~(笑)
 
 第一楽章だけでも心拍数が上がっているのに、
 第ニ楽章はヴァイオリンの天へ上る高音域と伸びが印象的な旋律だから
 それはもう、アリーナの真骨頂!スーッと、透明感を保って突き抜ける音
 そう!これがやっぱりアリーナの音だよね!と心浮き立ちました。
 相変わらずティベルギアンさんはニ楽章の表現が巧くって、
 アリーナの音にくっつきすぎない寄り添い方とか、もう凄いな…。
 とか余計な事を考えられたのは何度か聴いた後だからで、
 初回は心地よい昂揚感を胸に、でも耳はものすごく音に集中して
 世界に没頭して聴けました。ホールだったらもっと没頭したかも。
 
 第三楽章は曲調自体が踊ってるし、プレストで速いので
 第一、ニ楽章で温めた興奮をいっきに発散できました♪
 めくるめく音速の世界、でも土を踏みしめて駆け抜けるように…
 これ弾いていて気持ちいいだろうな~と思うのですが、
 聴いていても気持ちいいですvvv
 初夏の草原を誰かと(←一人じゃないとこポイント)アホみたいに疾走して、
 爽やかな汗をかいてアハハハ~(爆)みたいな爽快感?
 大人がちょっと子供みたいなことをしたくなる休日、みたいな?
 日常があるからこそ感じたい非日常、みたいな?
 って色々妄想したけれど、ああ!ひと言で「はっちゃけた」っていうのが
 すごくよくわかりました!ものすごく的確な表現ですよね!
 最初に聴いた時、私も思わず拍手しちゃったもの(笑)
 
 そんなわけで嬉しくも寂しくもソナタ全集完結です。
 前作までは、アリーナらしさがやっぱりいいな、と思っていたのですけど
 今回、特に「クロイツェル」に関しては私、
 子供の頃よくピアノでレッスンを受けていたベートーベンの曲で
 何となく思い描いていた、音楽室に飾ってあるあの肖像画の(笑)
 ベートーベン(の音楽)だ!と思いました。
 ベートーベンの作曲に対する解釈とかそういうことより
 子供の直感の「ベートーベンってこんな人だろう」という雰囲気が
 そのまま旋律に乗ってる感じ、ベートーベンという旋律に
 より乗っかった感じの演奏、というべきでしょうか。
 全ソナタを通して、二人なりの解釈、個性を打ち出してきた中で、
 最後に持ってきた大作「クロイツェル」でベートーベンに回帰した…と思うと、
 ある意味、前2作で膨らんだ期待を外されてしまうかもしれませんが、
 バッハの無伴奏の録音を2度行って、
 2度めであきらかに進化した演奏を見せてくれたアリーナですから、
 この曲に関してもまだまだいろんな引き出しがありそうです。  

 次はもっと楽しみな、ラヴェル、ルクーのCD!?
 その前に日本初協奏曲!?(欲を言えばティベルギアンさんとペアで来日して!)
 彼女からまだまだ目が(耳が)離せませんvvv